aichikenminの書斎

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【読書】死神の浮力/伊坂幸太郎 死神が人間たちに正論を説く。大真面目に。

主人公は死神、儚い人間ではない

死神の浮力 (文春文庫)

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娘を殺された作家夫妻は犯人に対する憎しみを抱いている。

 

犯人は無罪判決を受けてしまった。

彼らは復讐を計画していた。

 

そんな中、彼らの前に死神が現れた。

死神は名前を千葉という。

 

千葉は人間を7日間調査し、その人間が死んで問題ないかどうかをチェックする仕事をしている。

死神の調査だ。

 

夫妻が復讐を計画している間、千葉は彼らと行動を共にする。

だが、犯人は復讐されることを見越していた。

 

犯人はサイコパス、感情が欠如して他人を操ることに快感を覚える人間だった。

そこからサイコパス対死神という不思議な構図が出来上がる。

 

犯罪と復讐、そして死というものが重なって本作は構成されている。

ファンタジー成分がありながらも、深い社会性と死への考察が含まれている。

人間とはかくも儚い、そして尊いものであるか。

名目で一括りにするのは簡単だが・・・

「事件を追うマスコミと括られる人間の中にも、さまざまな種類の人たちがいる」

主人公夫妻が娘を失った後、マスコミから多種多様な取材を受けた。

マスコミの中には、非人道的な物言いや行動をするものもいる。

知る権利を盾にし、当事者の感情を蔑ろにした行動により、夫妻は深く傷つく。

だが、すべてがそんな人間ばかりではない。

一括りにするのは簡単であるし、分かりやすくもある。

ある種、的を射ている可能性も高い。

だが、本質を理解しようとしていないことを認識すべきだ。

 

 

ご都合主義は小説の中だけか

「寛容は、不寛容に対して不寛容になるべきかどうか」

主人公の敬愛する文学者の言葉。

理想論かもしれないが、その答えとして不寛容たるべきでないともしている。

ガンジーのような強さが求められる。

小説としてはありきたりなことでも現実にハッピーエンドが起きたらいいじゃないかと。

そういう優しさが本作にはつまっている。

 

当たり前のことを当たりまえに

「指示されたことを手を抜かずに行なう。それが、仕事ではないか」

死神の中でも、仕事をしっかり行なう千葉の発言。

当たりまえのことを当たりまえに言っているだけだが、彼の発言はごもっともである。

人間の中では、当たりまえのことを発言されると馬鹿にされるような不思議な感覚がある。

それを一歩上の、死神という目線から言われると、なんとなく新しい気がする。

だが、わかっていなければならない。

 

流されないように、飲まれないように

「刺激的な話で、しかも、ありそうな話は、世間の大好物だ」

マスコミは世間の好物を出す。

マスコミが品がないと指摘する前に、世間のあり方を考えなければならない。

自分の、自分たちの無関心や考え足らずが、過ちにつながらないうちに。

 

父の偉大さ

「怖くない。大丈夫だ。俺が先に行って見てきてやるから」

主人公の父親が、死ぬ直前に言った言葉。

死というものに恐ろしさを抱く人間たち。

父親は息子に、死は恐ろしくない、怖くないんだと教える。

なぜなら父親が先に行って見てくるから。

人間はいつか死ぬ。

だが、未知であるからこそ恐いのだ。

父親の懐を深さを思い知る。

 

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