【読書】介護退職/楡周平 当事者となった時に初めて悟る
ありふれた光景が一転する
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東京で働く子どもと地方で暮らす親。
今ではありふれた光景になった。
本作ではそのありふれた光景が一気に大変な事態を引き起こす。
主人公は大手電機メーカーの事業部長。
世界を股にかけ、巨大なプロジェクトを進めている実力者。
そろそろ執行役員の椅子も見えてきたと思っていたとき、
地方で一人暮らしをしている母親が倒れたとの知らせが突如舞い込む。
当初は治るまで東京で一緒に暮らし、良くなったら実家に戻すという事を考える。
だが、自分は仕事がある。
主に面倒を見るのは妻。
悲劇は更に続く。
母親に認知症の気配が現れ、苦労が多くなった妻も倒れる。
このような環境になり、主人公は介護をせざるを得なくなる。
民間のサービスがある程度充実してきてはいるものの、
24時間融通を効かせてくれるわけではなく、家族の負担は相応にある。
そんな主人公は会社からもお荷物扱いをされてしまう。
閑職に飛ばされ、時間の自由は聞くが、働く意味を見いだせない。
ついには会社を辞め、母親の介護をすることに。
親と離れて暮らす多くの人々が潜在的に抱えている問題。
あえて目を背けているのかもしれない問題。
介護の問題はこれから団塊の世代が高齢者のカテゴリに入っていくため、多く巻き起こるはずだ。
ただ、実際に起こらなければ全くわからない。
直面して始めて、事の重大さを認識するのだ。
現代の社会が直面しつつある巨大な問題を映しだすとともに、
自分の身に置き換えて、考えるためのきっかけになる一冊。
親の愛情に甘えてしまう子ども
「子を思う親の気持ちというものは、いくら年を経ても変わらぬものだ。いや死ぬまで変わりはせぬだろう。それが親の愛というものであり、私は今の今までそれに甘えてきたのだ。」
親は、子のやりたいことを尊重してくれるものだ。
それに甘え、親を一人にしてしまうということ。
仕方がないと思いながらも、甘えてしまう。
地方から出て行かざるを得ない背景には、東京に仕事が集まりすぎているという要因が存在する。
国の機関を地方に出すことがこれらの解消に繋がるのは間違いないのだ。
介護という大きな問題
「いずれ母も介護の手を必要とする時がくるだろうとは朧げに考えてはいたが、それが現実となると、何一つとして準備が出来ていないことに私は呆然となった。」
直面して始めて明らかになること。
様々なサービスを受けることができるが、お金は十分にかかってしまう。
制度は様々整えられつつあるが、会社としても考えなければならない。
従業員一人に対し、親は二人いるのだから。
介護しなければなくなった場合、辞めなければならないのならばこれは非常事態だ。
高齢者に対する社会保障を増やすことは、若者たち労働力の不可避な減少を抑える手段でもあるのだ。
「絶対に崩せない生活環境がある。その中でどう最善を尽くすか。」
介護をする人にも生活はある。
崩せない生活環境は維持したまま、最善を尽くすこと。
何から何まで一人でやろうとしてはならない。
介護は長い孤独とのでもある。
頼れるものには頼って、余裕を持つことも大事なのだ。
「介護という問題は、頭では分かっていても、今をどう生きるかで精一杯で、
それがどれほど過酷なものか、そして時として家族の運命をも狂わせかねないもんだいであるかを、その当事者となった時に初めて悟るのだ」
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