【読書】ペテロの葬列/宮部みゆき 人間の弱さをまざまざと見せつけられる一冊
バスジャックの裏側に隠された社会問題
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大企業の広報室に所属する杉村はバスジャックに巻き込まれる。
バスジャック犯は穏やかな老人、ただし拳銃を持っている。
呆気無く事件は解決する。
だが、犯行の動機の裏側には別の事件が隠されていた。
事件というよりも社会というべきかもしれない。
会長の特命として事件を追うことになった杉村だが、
彼の身の回りにも徐々に変化が現れる。
人間の弱さをまざまざと見せつける宮部みゆきの物語。
弱いながらも懸命に前を向き歩いて行く姿。
かくもリアルに人間を見せつけられる小説家は稀であろう。
自分自身の目標を探す
「自分の人生の目標を見つけられるまで、ゆっくり考えなさいって言ってくれました」
人はそれぞれ自分の生きる目標を探している、あるいは持っている。
いつ見つけられるかは人によって異なってくるし、途中で変わることもある。
何のために生きるか、何のために働くか、何のために学ぶか。
明確な答えを持っている人は伸びていく。
ただ目標を人と比べることに意味は無い。
学校生活では、偏差値という分かりやすい概念になれてしまうから他人との比較をしてしまいがちだ。
人それぞれという言葉の意味をどれだけ理解できているだろうか。
「だがああいうタイプの人は、一度折れると根元から折れてしまう」
同じ環境に置かれていても、上手くやれる人とそうでない人がいる。
それは人の考え方や生き方によるものだ。
上手く生きるために、自分を曲げる人もいれば、押し通す人もいる。
どちらがいいかは分からないが、常にバランスは意識することが大切だと思っている。
人がモノになる場所、ネット社会
「現実味を欠いた勝手なやりとりをただ楽しんでいるようでもあった」
バスジャックに関して、ネット上で議論が湧いたことに対する主人公の思い。
現実では起こりえない展開にネット上ではなり易い。
そこには相手が人であるという意識が希薄になってしまうことが要因として潜んでいるのではなかろうか。
自分が自分から切り離され、別の自分として存在することを許されている、そんな空間。
「匿名の情報の巨大な集積場であるネット社会では、十人の常識人の発言を、たった一人の煽動者が簡単に打ち消してしまうことができる」
人は分かりやすいストーリーを求める。
なぜならネット社会に流れるニュースにそこまで興味や関心を持っていないから。
自分と関係ないところの話は、3行で知りたい、理解したいのだ。
だが、自分にとっては何気ない発言でも、他人を大きく傷つけることはある。
ネット上での発言は、ものすごく大きなスピーカーを持ってがなりたてているようなものなのだから。
甘えとは何か
「舐めてるってことは、許してもらえると甘えてるってことよ」
主人公の上司、園田のセリフ。
これは非常によく分かる。
甘えることの身勝手さと相手に対する敬意の欠如。
自分の行動にも照らしあわせて考えたい言葉だ。
人間の矮小さと弱さを宮部みゆきは伝える
「三人集まれば派閥ができる。それが人間だ」
人間は弱い。
弱いから群れる。
集団をカテゴライズしたがる人は多いが、それは自分の仲間を探しているのだと考えることもできる。
人をカテゴリー分けすることは嫌いだが、そう考えると何となく可愛げがあるように見えてしまう。
僕もこの発言で人をカテゴライズしているようだ。
「ペテロがもっと臆病な人だったなら、嘘をつかずに済んだのよね。
勇気と信念があったばかりに、恥に苦しむことになった。
正しい人だったからこそ、罪を負った」
全くのダメ人間であれば、罪を追うことはない。
そういう風に完全に諦めることで逃れるという考えもある。
だが、我々は嘘に耐えることができない。
いつかは正直に白状してしまうものだ。
だが、時には真実よりも隠し通す嘘のほうが綺麗な場合もある。
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