【読書】インフェルノ(中巻)/ダン・ブラウン 世界を、人類を救うために
物語はミステリーから人類の問題へ
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彼らが見たもの、それはすでに盗まれた後であったダンテのマスク。
犯人からの手がかりが書かれていると思われる品物だ。
だがそこには監視カメラの映像があった。
その映像に不審人物が写っていた。
それを見た ラングドンは驚愕する。
なぜならそれは自分だったからだ。
現在のデスマスクの所有者は、ゾブリスト。
大富豪であり、かつ生物学者、ただし異端。
彼は人類は滅亡の危機に瀕していると主張している。
そしてそれを救うのは彼自身だと。
その先にあるものとは一体。
誰が敵、誰が味方、誰が犯人か。
すべてが入り乱れて複雑に絡み合う物語。
ページをめくるごとに、敵味方は目まぐるしく変化する。
世界の、人類の行く末を憂う
デスマスクの所持者であるゾブリストが書いた論文の一節。「いま人類は存亡の危機に瀕していて、大災害か何かが起こって世界の人口が激減しない限り、あと100年も生き延びられないだろうと感じていた」
彼の試算は説得力に富んだデータが裏付けとなっている。
ゾブリストは人間の寿命を延ばしても、人口問題を悪化させるだけなので全ての医師は医療行為を止めろ、と主張した。
自分の周りだけ見ると、人の死というものは強く恐ろしいものである。
だが地球全体で見たときに、果たしてそれは同じなのか。
人間という生物が広がりすぎ、増えすぎた時、地球が滅亡する可能性がある。
そう言われたとき我々はどのように行動するのか。
主観客観どこに重きを置くのか。
人から旅立つ死という出来事
「 私は死を恐れてはいない。なぜなら死は夢想家を殉教者へと変え、崇高な着想を強大な運動へと転ずるからだ」
人は死んでから偉大になる。
それは死んでから評価されるとともに、同じ時間軸で生きていることで 尊敬の対象から離れるからかもしれない。
人は死ぬことで神になる。
逆に手の届かないところに行くだから、神として崇めるほかないのだ。
今回の事件を起こした犯人も結局のところ傲慢と自己顕示欲の塊とも言える。
果たしてそんな人間が人類を救うことができるのか、いやそうではないと信じたい。
自然と人工の狭間の領域
「 人類は科学技術を駆使して肉体の弱さを克服 するべきだと主張している」
トランスヒューマニズムの考え方の一部である。
犯人一味の一人はこの考え方に傾倒している。
自分たちで人間を設計する。
果たしてそれは可能なのか。
なぜ人間の進化が長い時間をかけて行われてきたのかを考える。
それを人間の力で急激に変化させる。
倫理的な問題以上に肉体的なダメージが大きいのではないかと。