【読書】さよならの代わりに/貫井徳郎 「実はあたし、未来から来たのよ」
「このSF青春ミステリは徹底的に無意味な物語である。」
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「実はあたし、未来から来たのよ」
劇団役者の前に、こんなことをいう少女が現れた。
彼女の目的は、殺人事件の容疑者を救うこと。
唐突に、こんなことをいう人間が目の前に現れるとどうなるか。
もちろん、信じないに決まっている。
彼女は言う。
公演中、ドアの前に立って、見張っていてくれと。
その公演が終了したときには、殺人が行われていた。
疑われたのは劇団の主催者。
彼はやっていないという。
しかし、凶器のナイフから指紋も出てきた。
彼の冤罪を晴らすために、駆け回る。
時間の中で苦悩する彼女。
SFのようなテイストではあるものの、非常に読みやすく軽快なタッチで描かれる。
無条件の優しさ
「騙すよりは騙される方がいい」
主人公の役者はこう考える。
優しさに溢れた言葉である。
だからこそ、未来から来た彼女は彼を信じることにしたのだ。
荒唐無稽なことを言っていても、誰からも信じてもらえなくても、彼ならば頼ることができる、と。
正直者が苦しむ世の中
「人は善意だけで生きてるわけじゃないよ」
人を疑うことをしない主人公。
周りの人は、彼を注意する。
騙されることもあるから気をつけなさいと。
それを念頭に置きながら生きていかないと自分がつらいと。
確かに、人を信じることは難しい。
でも、疑ってばかりいるのもつらいのだ。
他人への全面的な信頼と優しさを忘れていないか
「恩師である新條さんの災難を他人事だと思ってしまっている自分に、ぼくは腹が立った」
他人事、そう切り捨てることは簡単だ。
他人事だからこそ、自分は自由になれる。
だが、親しい人の悩みぐらいは自分も当事者として受け止めたい。
そう主人公は考える。
それが彼の優しさであり魅力であるのだ。
現代人が忘れてしまった真っ直ぐな優しさに魅せられる。
タイムスリップをした人間が一番苦しい
「既に起こってしまったことに関する、疎外と欠落の物語だ」
タイムスリップとは、タイムスリップした人間が疎外される物語である。
そこで何が起こるかわかっているのに、誰にも信じてもらえない。
何も変えることができない。
そうやって苦しむ。
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