【読書】蛍/麻耶雄嵩 「蛍が止まらない」
騙されるのは誰だ
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心霊スポットを巡るサークルに属している6人が、山間にあるファイアフライ館を訪れた。
その館では、10年前、ある作曲家が6人の演奏家を殺害した場所であった。
半年前、一人の女子メンバーが殺人鬼ジョージに殺された。
連続殺人犯であるジョージは未だ逮捕されていない。
ファイアフライ館での4日間の合宿。
そこで何も起こらないわけがない。
雨が降り、彼らは館に取り残される。
サスペンスでありがちな、脱出できない館。
殺人事件が起こらない訳がない。
館の主が死体で見つかった。
物語は登場人物の視点で語られる。
騙されたのは誰だ。
騙されるのは誰だ。
最後まで、油断してはならない。
サスペンスの王道、閉じ込められた人々
「サスペンス小説では不意の客が軒下を借りに来るのはきまってこんな嵐の夜なのだ」
登場人物たちは、館から逃げ出すことができない。
雨の中、新たな人間が現れるのではないかと危惧するのだ。
彼ら以外の人間が館にいるのか。
それとも、彼らの中の誰かが犯人なのか。
繰り返しの物語
「永遠に繰り返され終結に至らないもどかしさ」
館で発見したレコードは、傷がついており最後まで演奏されることはない。
途中で繰り返される。
永遠に。
音楽が脳や精神に与える影響は小さくない。
そんなレコードを聞き続けることで彼らは、そして10年前の殺人鬼はどうなったのか。
場の空気が人間を変える
「明るい未来というものは自分たちにはあるのか」
館の陰鬱な空気をうけ、彼らは沈み込む。
館という密室な空間で彼らは何を思うか。
犯人が近くに潜んでいるということ、そして自分たちが狙われていること。
殺人鬼が身近に潜んでいたこと。
彼らに果たして救いが現れるのか。
無力な人々、決まっている未来
「自分にとって決定的な出来事が、知らないところですでに起きてしまっているという感覚」
この作品の魅力をこう語る。
圧倒的に無力な登場人物たち。
事件に飛び込んでいくのではなく、巻き込まれていく。
スタートは彼らが存在する時点ではなく、はるか昔のことだった。
時間軸という不可逆が物語全体の雰囲気を作る。
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