aichikenminの書斎

20代サラリーマンが、読んだ本と、心に残った言葉、その時考えたことを徒然なるままに書き留めたもの(金融、理系、工学、航空機、読書)

【読書】夜行/森見登美彦 「彼女はまだ、あの夜の中にいる」

夜行とは、夜行列車か、それとも百鬼夜行

夜行

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夜の夢、それは儚いものである。

現実も儚い、そして脆いのは同じ。

であれば、夢と現実の間はどこにあるか。

境界が曖昧になり、夢と現実の垣根が取り払われる。

夜、それは身近なものであり、遠いものである。

 

主人公は大橋、10年前は大学生だった。

そして10年前の懐かしの友人たちと京都に旅に来る。

彼らは6人グループであった。

だが、いまは5人。

そう、10年前の鞍馬で、仲間の一人が行方不明になった。

 

いなくなったのは、長谷川さんという女性。

物静かな、それでいて魅力的な女性だった。

彼女はむしろいなくなってからの方が皆の心に残っている。

 

10年ぶりに集まった彼らは、昔話を始める。

10年間、彼らそれぞれはどのように生きてきたか。

その中で、ある共通点が見つかる。

それは岸田という画家の絵と、彼の絵にまつわる不思議な出来事を経験していたのだった。

 

果たしてそれは偶然か、必然か。

あの夜から、彼女を救い出すことができるか。

 

著者の小説は、ファンタジーの中に何かしらのメッセージが込められている。

本作のメッセージは何だろうか。

考えながら読み進めると非常に楽しいのだ。

過去と未来、あなたはどちらを見据えているか

「わたしの時間まで止まってしまいそう」

年を取ると人は同じ話を繰り返す。

それは忘れられない、忘れたくない思い出であるからだろうか。

繰り返すことで、幸せを思い出すことができるからだろうか。

人はいつ、思い出を重視するようになるのか。

新しいことよりも過去に目を向けるようになるのはいつからか。

 

 

特別なことではない、身近なこと

「「彼女ならそういうことも起こり得る」とひそかに思ったことも確かです」

彼女が失踪した時、藤村は思った。

いつも彼女は謎めいた印象を与えていた。

彼女という人間の中心に闇があるような、そんな儚く不思議な印象を。

逆に言えば、闇のない人間などいない。

そして見る側がそのように見てしまえば誰でもそう見えるのだ。

そう、だからこそ、誰の身に起きてもおかしくないのだ。

 

闇が映し出すものは自分

「この闇はどこへでも通じているんだよ」

都会は光に溢れている。

24時間、いつでも光っている。

真っ暗闇というものに久しく触れていない。

そう、だからこそ、人は闇を恐れる。

何も無い、無いからこそ恐れる。

自分を映す鏡かもしれない。

心の中にある恐怖が、闇の中に得体の知れないものを作り出す。

 

 

暗い世界を生き抜くために

「たとえ窓の外には暗い夜の世界が広がっていても、車内には旅の仲間がいて、温かい光がある」

世界を夜行列車に例える比喩。

どれだけ世界が暗くても、自分の周りには温かい仲間がいる。

その仲間たちとともに、どこまでも行けるのではなかろうか。

長い暗闇の中、我々はどこから来てどこに行くのか。

この世界の未来が光り輝いていればいいのだが。

いや、光り輝く未来にするのは我々か。

 

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