aichikenminの書斎

20代サラリーマンが、読んだ本と、心に残った言葉、その時考えたことを徒然なるままに書き留めたもの(金融、理系、工学、航空機、読書)

【読書】ようこそ、わが家へ/池井戸潤 弱い主人公の頑張りから、勇気をもらえる

柔らかそうなタイトル、そしてなぜか少し暗い印象を受ける表紙

ようこそ、わが家へ (小学館文庫)

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このアンマッチに興味を惹かれる一冊。

 

主人公の倉田は、銀行からの出向者であり、池井戸作品のうち、もっとも弱い主人公である。

彼は駅のホームで、男を注意する。

するとその日から倉田家に対する嫌がらせが始まった。

徐々にエスカレートする嫌がらせは、盗聴まで判明した。

嫌がらせをする犯人を明らかにし、平穏な日常を取り戻すために彼ら家族は対決する。

 

また倉田は会社でも窮地に陥る。

不正を糾弾した営業部長にやり返され、社内でも苦しい立場になってしまった。

彼は良かれと思って行動している、だがそれが所詮は出向者という視点で歪められる。

そんな苦しみを味わっている。

 

今までの池井戸作品は、歯に衣着せぬ強い主人公が多かった。

だが、今回は違う。

普通の、むしろ弱いと思えるような気の小さなおじさんなのだ。

彼の頑張りを見ながら、何か勇気をもらえる。

そして読了後のタイトルを見て、もう一度ふるえる。

 主人公、倉田の人生観

武力行使で収まる紛争ってのはないんじゃないか」

嫌がらせをされた犯人に対して、やり返したい。

そうなったときに倉田はいう。

あくまで平和に、やり返したことで何が生まれるのかと。

そこで解決されることは有りはしないのではないかと。

この一文が倉田の人間性を克明にあらわしている。

 

 

人間の恐ろしさは社会性を失った時に現れる

「匿名の仮面をかぶった瞬間、本性をむき出しに」

人は、現実社会の繋がりの中においては、ある程度自分を抑えていることがある。

自分がこういう行動をしたら周りにどう思われるのかと考えることがある。

しかしながら、匿名という空間においてはそうはならない。

なぜなら気を使う相手がいないから。

自分だと特定されなければその躊躇は不要だから。

そういった考えのもと、インターネット上では悪意が渦巻く。

それが満員電車のような不特定多数がいる現実空間にもはみ出してくるのだ。

知らない人間に何を思われてもいい、そういって彼らはむき出しにする。

 

正しいことを正しいということに気を使う世の中

「正しいことがいつも正しいとは限らないんだよ。だから世の中は難しいんじゃないか」

正しいことは何か。

それはその場その場で変わってくる。

そして正しいことが必ずしも求められるわけではない。

この葛藤に倉田は苦しむ。

正しいことを捻じ曲げて、何が得られるのか。

 

名前がない人間はいない

「名無しさんは、もういない」

匿名の影に隠れた人間は、その人自身も必死で生きている。

人それぞれに自分の人生があり、ただの名無しさんではないのだ。

相手も人間である。

そして名前を知らなくても、彼は生きている。

このように思い至ることで、社会はより優しくなれるのだろう。

 

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