【読書】球体の蛇/道尾秀介 嘘が嘘を呼び、真実が隠され、変わる運命
嘘が嘘を呼び、真実が隠され、運命が変わる
嘘と真実が織り交ざり、重なりあった先にあるもの。
嘘が嘘を呼び、真実が隠され、運命が変わる。
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ほんの少しのきっかけが、些細な出来事が分水嶺になっていた。
読者という俯瞰した風景だからこそわかること。
自分の周りにもあるかもしれない。
そんな気になるほど現実感のある物語。
「相手を無根拠に見下している目つき。
何かを頭の裏側でいつも計量しているような目つき」
普段の生活では触れないような表現であるが、理解できる。
こういう目つきをしている人間とは、仲良く慣れないし、信用出来ない。
選挙で投票する際には、意外と重視するかもしれない。
「もし本当の枝豆のように、人の莢の中を簡単に覗くことができたら、どんなにいいだろう。
この世の問題の大半は、きっと怒らずにすむのではないか。
他人によって左右されていくはずの運命を、人は自分で選ぶことができるのではないか」
登場人物が人間は枝豆のようだと言っていたことに基づくセリフ。
嘘や本心を隠した言葉によって、間違った方向にいくことは多くある。
相手の中を見ることができれば、それを回避できるだろうという思いがこもっている。
「酒を飲むのが恥ずかしいから、それを忘れようとして酒を飲んでいた男」
星の王子さまの話を思い出している主人公。
忘れたいという思いの繰り返しにより、いろんなものを隠している。
一番はじめはなんだろうか。
嫌なことを忘れたいがために酒を飲む。
忘れたいこともあれば、目をそむけてはいけないものもある。
その見極めは大切だし、難しい。
「それぞれに嘘を抱えた人間」
この物語の中には、嘘を抱えた人間がたくさん出てくる。
そしてそれらが繋がり合っている。
自分のために嘘をつくのではなく、大切な人のために嘘をつく。
良かれと思っていたことが、実は裏目に出ている。
互いに互いを強く思いやるが故に、すれ違ってしまう思い。
本心でぶつかることを恐れたために、ズレが生じてしまう。
人との付き合いが希薄になりがちな現代社会において、恐ろしい現実感をもって迫ってくる。