【読書】魔術はささやく/宮部みゆき 傍観者から当事者へ
偏見に塗れた環境下で少年は育つ
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新聞記事から事件はスタートする。
ある女性がマンションから飛び降りた。
二人目の女性は地下鉄に飛び込んだ。
そして三人目の女性はタクシーの前に飛び出して轢かれてしまう。
物語は、少年の視点で動き始める。
少年の叔父はタクシー運転手。
三人目の女性をひいたタクシーを運転していた運転手だ。
物語と同時に、少年のバックグラウンドについても明らかになってくる。
少年が叔父の家族と暮らしているのには理由がある。
少年の父親は、役所の職員であり、横領をしていた。
そしてそのまま行方不明になっているのだ。
これら二つが混ざり合い、重なりあい、進む物語。
そして真相が明らかになった後、少年にとって決断が迫られる。
事件の関係者という立ち位置であり、当事者ではなかった彼が、突然、当事者になる。
離れた場所にいた読者も巻き込まれるのだ。
宮部みゆきの文章を読ませる力、惹きこむ力が素晴らしく、そして恐ろしい。
他人を蹴落とす人の悪意
「誰かから何かを取り上げることが、ただもう純粋に楽しいからやっているだけなのだろう」
深い言葉。
自分もまわりの人間もそこそこ幸せになっている現代において、それでも他者よりも優越感を感じたければ、相手を落とすしかない。
他者と比べることでしか、自分の立ち位置を理解できないようになってしまった人が多いのだろう。
資本主義のせいなのだろうか、市場原理のせいなのだろうか、ゆとり教育のせいなのだろうか。
意志を持つこと
「人間てやつには二種類あってな。一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやりとげてしまう人間」
人間の力は意志の力次第。
やりたいと思ってやることに対して、あとから実力はついてくる。
逆にやれることであっても、やりたくないことは消極的になる。
言い訳をせずに、自分の意志をもって行動することが求められるのだ。
言ってもわからない人は上手く避けて生きる
「ただ世間には、目の悪いやつらがごまんといるからな」
人に対して偏見を持つ人たちが多いことに対する言葉。
そういう人たちに対して、面と向かって向き合う必要なんてない。
うまく避けて生きていくことが自分の精神状態を保つことにつながる。
何を言っても自分の考えに固執する人間はどうしようもない。
人は柔らかくないと、コンピューターと大差なくなってしまうのだから。
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