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【読書】64/横山秀夫 必ずや犯人を昭和六十四年に引きずり戻す

久しぶりに、すごいミステリーに出会った

64(ロクヨン) 上 (文春文庫)

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ゴールが見えないまま全速力で突っ走らされる

そんな小説。

 

主人公の娘が失踪中、記者クラブとの揉め事が発生。

かとおもいきや、警察庁長官の視察が決定される。

その目的は昭和64年におきた通称ロクヨンの査察。

 

視察を巡り、刑事部と警務部が対立。

衝突を回避するために、主人公三上は駆けまわる。

暗躍しているのはだれか、上が隠していることはなにか、本当の目的は。

 

警察内部の問題で彼は飛び回る中、さらなる事件がおこる。

ロクヨンに酷似した誘拐事件だ。

発生日は長官視察の前日。

 

これは本当に起きているのか。

長官視察を阻止するための刑事部の捏造ではないのか。

そんな疑心暗鬼も見え隠れする中、クライマックスへと向かう。

 

事件本体は、どこにあったか。

事件解決のための事件であった。

嘘と真実がひっくり返る、そんなミステリーのお手本とも言える素晴らしい作品だった。

 

閉鎖的な組織の弊害

「外には刺激がある。光があり、季節があり、人々の営みがある」

引きこもりがちな妻について考える主人公。

閉鎖的な空間にいると、刺激がない。

外を見ることで、外に出ることで、違った感情が芽生えてくる。

組織も一緒だ。

一つの組織が内側だけを向いている場合、その中では淀んだ空気が鎮座している。

内と外が混ざり合い、撹拌することが必要なのだ。

 

「失敗を恐れるのではなく、上が失敗と見なすであろうことを恐れている」

失敗とはなんだろうか。

自分が失敗だと思えば失敗なのだろう。

誰か一人に対して、失敗だとみなされることが重要なのではない。

善悪に対して向き合うことこそ必要なのだ。

失敗とは、心の持ちようでもある。

 

 

人間性は不必要で、機能のみを求める

「現代人が警察に求めているのは正義でも親しみやすさでもなく、安全を担保する機械としての役割だ」

警察だけでなく、あらゆるものが機械的に求められているのではなかろうか。

例えばコンビニでも、店員を人と思わず、お金だけ払って、品物を受け取る。

そんな匿名の消費者としての振る舞いが当たりまえになっている。

だが、顔なじみの店員やスタッフがいると安心するのは間違いない。

心まで機械になってしまってはならない。

そういう人間こそ、機械に取って代わられてしまうのだから。

 

偶然の出会いから

「たまたまが一生になることもある」

主人公はもともと刑事であった。

それがたまたま広報官になったのだ。

だが、そもそも刑事になったのだってたまたまだ。

多くの偶然や巡り合わせの中で今の場所に立っているのだ。

それをいつの間にか勘違いしてしまうかもしれない。

そして離れがたく思ってしまうかもしれない。

そんなときは一歩引いて、本当にそうか、と自分に問いかける必要があるのかもしれない。

 

部下と上司の関係はある種の諦めを含む

「本心から従順な部下など存在しないし、部下の内面を掌握している上司もまた存在しないと知っている」

上司と部下の関係は完全ではない。

なぜなら人と人は全く同一たりえることなどないからだ。

100%従う必要もないし、100%知ってもらう必要もない。

完璧を求めるのではなく、ある程度諦めるということも大事なのだ。

そうすれば他人にすがり切るのではなく、自分の足で立てるようになる。

 

匿名という名の怪物

「疑心を餌に無限に増殖する、匿名という名の怪物を野放しにはできない」

匿名という言葉の裏には、隠すという意味がついてまわる。

意図的に隠すには何かしらの理由がある。

尾ひれがついたまま、徐々に拡大していくのがこの言葉の恐ろしい点だ。

匿名の影に隠れて発言をすることも当たりまえになりつつある社会において、忘れてはならないのは、匿名はとらえどころがないから恐ろしいということ。

逆に言えば、匿名の殻をかぶらなければ、恐ろしくもなんとも無いことだ。

 

64(ロクヨン) 下 (文春文庫)

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