【読書】鬼の跫音/道尾秀介 過去に犯した罪や出来事に怯える人間たちの物語
過去に犯した罪や出来事に怯える人間たちの物語
本作には短編6つ。
いずれも不気味で恐ろしく描かれた物語。
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過去に犯した罪や出来事に怯えている人間の物語たち。
ストーリーそれぞれに繋がりはない。
ただひとつ、すべてにSという人物が登場することを除けば。
おそらく、Sは同一人物ではない。
たまたまSという名前が一致しているだけなのか、
パラレルワールドでの話なのか、最後まで明らかにはされない。
自然に読み進めていくと、最後でひっくり返される。
衝撃の事実がさらっと書かれている。
そんな短編たちを作る道尾秀介。
人の中にすむ鬼を目の当たりにする。
世界が変わるのはふとしたこと
「自分の抱えていた問題は、なんて小さく、軽いものだったのだろう」
自分を客観的に見る時に、始めて気づくこともある。
無我夢中になっているときには見えないものがたくさんある。
でも、そんなに単純なことばかりではない。
この物語もそう。
少しだけ順番が変わっていたら、結果も変わっていただろう。
外に打ち明けられない悩みと助けて欲しいという望み
「哀しませるわけにはいかない。本当のことを言うわけにはいかない」
いじめを親になかなか打ち明けられない少年の一言。
親のことを思うがあまり、真実を話すことができない。
余計な心配をかけたくないと思う優しさの結果だ。
だが、親にとっては、何かを隠しているのは察することができる。
それを打ち明けてくれないことこそ、余計心配になるのだ。
子供の時には思わなかったことだ。
「もう一度変えてもらいたかった。たとえ、またすぐもとに戻ってしまうとしても」
少しのきっかけさえあれば、背中を押してもらえさえすれば。
そういう思いが込められた願い。
真っ暗闇の中、どんな些細なきっかけであってもすがりつきたくなる。
それが人間、弱い生き物だからこそ支えあって生きていく。