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【読書】空の境界(中)/奈須きのこ 伽藍洞だという事はいくらでも詰め込めるという事だろう

伽藍洞だという事はいくらでも詰め込めるという事だろう

空の境界の中巻。

第四章の伽藍の洞、第五章の矛盾螺旋が収録されている。

 

上巻では明らかにはなっていない式が事故にあってから目覚めるまでの過程描かれる四章。

黒桐の上司である魅力的な女性、蒼崎橙子

彼女が十二分に活躍する第五章。

そして敵は魔術師たち。

どの登場人物も様々な思いを抱えている。

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魔術師たちは人間の起源に迫ろうとする。

だが、その起源は人によって異なり、また近づくためのプロセスも異なる。

彼らの行動原理には、内に秘めた強い思いに裏打ちされており、総じて魅力的である。

 


第四章、伽藍の洞

式が第二章、殺人考察(前)の最後で事故にあってから目覚めるまでのお話。

事故により式の中から織が消えた。

そのポッカリ空いた穴を埋められないまま、目が覚める式。

目を開けたら死が見える魔眼を手に入れていた。

 

見ているだけでも辛い世界を直視する。

そんな式のもとに蒼崎橙子が現れる。

 

リハビリテーションっていうのは医学用語じゃないぞ。
あれはね、人間としての尊厳の回復という意味なんだ」

人が人らしくあるために、尊厳を回復する。

身体自体が慣れるよりも、自分のことを人間だと実感することに意味があると彼女はいう。

確かに、一度動かなくなってしまったものを、再度動かそうとするには、強い思いが必要だ。

まずは、心の回復から。

それが最も重要で、最も難しい問題なのであろう。

だからこそ、リハビリテーションをサポートする人たちがいるのだ。

人間であるという尊厳は大事。

 

「伽藍洞だという事はいくらでも詰め込めるという事だろう。
この幸せ者め、それ以上の未来が一体どこにあるというんだ」

自分の中が空っぽになって、目的を見失ってしまったことを悲観する式。

それに対し、橙子はこのように返答する。

空っぽということは、逆に言えばそれだけの空間を有しているということ。

染まっていないからこそ得ることができる様々な知識や経験、考え方

染まりきってしまってはいけない。

いつでも空間を開けておくことが新たな自分への成長の第一歩か。

 

第五章、矛盾螺旋

魔術師、荒耶宗蓮が現れる。

 

今度の舞台は高層マンション。

マンション全体が、一つの世界を構成する。

それぞれの家族が、死を繰り返す。

 

そこから抜け出た臙条巴は式に出会う。

そして式、橙子と荒耶の対決が始まる。

 

荒耶は死を何度も何度も繰り返す住民たちを見て何をしたかったのか。

選ばれる幸せと選ばれなかった不幸を天秤にかけ、答えを得られなかった荒耶宗蓮

彼は何が幸せであるのかを知るために、死を採集した。

すべてを見比べて、何が幸せなのかを確かめるために。

世界全体として幸せを感じることが出来るのならば、その過程で生きた人間たちも幸せだと。

自分のためではなく、世界のためになることを探し続けた結果とも言える。

「その時に悟った。大人になるという事は、幻想を賢さと取りかえる事なんだ、と」

幻想というものは、未知から成る。

知識を得るということは、未知の部分が減るということ。

現実離れした考えを捨ててしまうこととも言える。

どちらが人にとっていいのだろうか。

幻想の中ばかりに生きていてはいけないが、現実ばかり見すぎていてもつまらない。

魔術師が、根源にたどり着こうとする姿勢のように大人になっても夢を見続けることは大切だ

 

「学んだ結果で資格を得るんじゃなくて、資格を得る為に学んでる」

運転免許についての橙子の発言。

目的と手段が入れ替わってしまっていることの一例。

中身がいつの間にか失われて、外見だけが独り歩きする。

皆が本来は気づいているのだけれど、目をそむけているからそのまま走り続ける。

目をそむけたほうが楽だから。

 

「学問に年齢は関係あるまい」
「おまえは外見ばかり気にしているから、中身が追いついてこないんだよ」

橙子の思いがこもった激しい言葉。

学問はどれだけ真剣に取り組んで何を得られたかが問題なのであって、取り組んだ年月は問題ではない。

長い間頑張っているという外見ばかりを気にして、中身の評価をすることができない。

確かに外見というものは、外からの評価がし易い

だからこそ、気にしすぎる人もいる。

だけれど、本来は中身。

年齢や経験が少なくても、中身のある人間はたくさんいる

年齢を重ねていても、中身の無い薄っぺらい人間はたくさんいる。

どこで彼らの差は生まれるのだろう。

途中の過程で諦める癖をつけてしまったからだろうか。

 

「人間全体が生み出す抑止力は星さえも食い潰して人間の世を存続させようとする」

人間は地球に住んでいる。

地球を食べて住んでいる。

人間は生きるために、地球を破壊し続ける

そしてその結果、人間の世界は存続している。

人間は自分たちが生き残るために、様々な手段を講じて、身を守る

たとえそれが地球に悪影響を与えるとしても。

抑止力はいい変えれば、自己防衛本能とも言えるのだろう。

 

だが、地球にも限界はある。

人間はそろそろ、地球の限界=人間の終わりということを理解するべきだ。

便利さから卒業して、より長い世界を作ることに神経を注ぐほうが未来のためになる。

地球を殺してはいけない。

 

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