aichikenminの書斎

20代サラリーマンが、読んだ本と、心に残った言葉、その時考えたことを徒然なるままに書き留めたもの(金融、理系、工学、航空機、読書)

【読書】半落ち/横山秀夫 一人の人間と一つの事件が、人の生きる理由を問いかけてくる

仕事とは、組織とは、そして家族とは

警察官が、妻を殺して自殺してきた。

動機も経過もすべて打ち明かすが、殺害から自首までの2日間の足取りだけは完全に黙秘している。

完全に落ちてはいない、半落ち

半落ち (講談社文庫)

新品価格
¥637から 

彼は何を隠しているのか。

事件により世間との繋がりが消えた彼は何のために生きているのか

何を待っているのか。

人生五十年という彼の書は何を意味するのか。

 

本書は6人の視点から順番に書かれている。

取り調べを担当する警察官、検事、この事件を記事にする記者。

彼の弁護を担当する弁護士、この事件を担当する裁判官、そして刑務所で彼に向き合う刑務官。

みな、事件後に彼に関わることになった人物たちだ。

 

 

ベルトコンベアーに乗ったかの如く、彼は進んでいく。

その中で、登場人物たちは彼に何を見たのか。

 

一人の人間と一つの事件によって、人が生きる理由を問いかけてくる本書。

仕事とは、組織とは、そして家族とは。

 

人が人たる理由、人が生きる理由

「自分はいつまで人間でいられるのか」

彼が殺害した妻は、アルツハイマー病でありもの忘れが多かった。

記憶が抜け落ち、大切なことまでも忘れてしまう。

そのときの妻のセリフ。

心臓が動いていても、考える事ができない。

その人らしくあることができない。

本人も辛いし、それを見ている側も非常に辛い。

人間というものは、心と身体の両方から成り立っているのだ。

 

「あなたは誰のために生きているんですか」

改めて問われると非常に難しい。

自分のために生きているのはもちろんであるが、人はそれだけではない、ないはずだ。

親だったら相手は子になるのだろうか、結婚していたら配偶者になるのだろうか。

子の場合は両親になるのだろうか。

人それぞれ、なかなか意識することは少ない。

でも重要なことだ。

 

 

組織というブラックボックス

「組織は常に保身だけで動いています。組織に不利益とみなされれば容赦なく切られます」

組織に縋ることは簡単。

自分で考えるということを捨てればいいのだから。

ただし、自分がいくら組織に尽くしても、組織が自分に尽くしてくれるとは限らない。

組織という顔の見えない集団の中においては、代わりはいくらでもいる

組織の一員になるだけではなく、組織の中で独自性をもった必要な人間になれる人は少ない。

代わりがないのは、家族という組織だけだと僕は思う。

 

「まるでベルトコンベアーのようなものです。
被疑者の内面がまったく見えなくてもそうなるということが恐ろしい」

所詮は決められた流れにのせられるだけ。

組織の中においては、人と人で向き合うことが非常に難しい。

個人の論理と組織の論理は違う。

組織に埋もれても、個を消してはいけない、絶対に。

 

ベテランの生き様

「彼らは語りたがっている。自分の物語を読んでほしいと願っている」

ベテラン取調官が被疑者に対するときの心情。

事件を起こした人間の動機や理由を読み取ること、それが仕事なのだ。