【読書】貘の檻/道尾秀介 読者に考える時間と空間を与える、それが小説なのだ
小説の良さがココに詰まっている
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この本は何と紹介したらいいだろうか。
なかなかいい言葉が見つからない。
長編ミステリーであるが、それだけではない。
小説の良さがココに詰まっている。
良い小説とは何だろうか、そもそも小説の魅力とは何だろうか。
それは読者が想像力を働かせるところにあると私は思う。
本作はミステリーの体系をとっている。
しかしながら合間合間に夢の世界が挟まっている。
純粋にミステリーとして読んだならば、それらの シーンは邪魔なものかもしれない。
逆に言えば、この小説はそれだけでも十二分に楽しめる。
皆が少しずつ少しずつ誤解をして生まれた大きな差。
それは悲しい事件へと豹変する。
登場人物たちが互いに少し、ほんの少しだけの読み違えだったのだが。
道尾秀介の上手さがここにある。
そして夢のシーンは何のためにあるのか。
それは僕も良く分かっていない。
ただの謎解きあれば、小説の形をとっている必要はない。
謎が解けることだけを魅力として捉えるのはいささかもったいない。
より想像力を広くすることで、この作品は化ける。
くっきりと解決するのではなく、読者に考える余裕を与える、それこそが小説。
追われる人、追われる子供
「 私は笑った記憶がほとんどない。どこへ行っても人の目が自分や母を見ている気がした」
父親が殺人を犯した。
それにより、彼と母親は村を追われた。
主人公の辛い生活はその時始まり、そして32年後の今、新たな展開を迎えようとしている。
なぜ、今彼女は現れ、そして死んだのか
「 私の目の前で、私よりも先に、私が想定していた方法で死んだ」
32年後、主人公の目の前に行方不明だった女性が現れる。
その女性は 32年前に父と一緒に 逃げたと思われていた。
そんな彼女が、主人公の前に現れ、そして線路に身を投げた。
なぜ今、この瞬間に?
止まっていた歯車が動き出し、そして逆回転する。
夢を忘れる、忘れられないのは現実
夢の内容を忘れるために、 悪い夢を見たときに、これを3回唱えれば忘れることができる。「 ゆうべの夢は貘にあげます」
バクは夢を食べる生き物。
悪夢を忘れるために。
だが忘れられるのは夢だけだ。
「 どんな夢でもいいから今すぐに私を呑み込んでほしかった」
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