【読書】掏摸/中村文則 惨めさの中で、世界を笑った連中
東京でスリを行なう天才スリ師の主人公
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悪事を働きながらも、それなりな暮らしを送っていた。
ある日、木崎という男と再会する。
彼は「最悪」の男、闇社会に生きている。
彼は主人公に仕事を依頼する。
失敗すれば殺す、逃げれば大切な人を殺すと。
強大な権力をもつ木崎に運命を定められたかのごとく仕事を依頼される。
逃げることができない、支配された人生。
木崎はそれを快感に思う。
支配するもの、支配されるもの、そして彼らの後ろ側には世界という更に大きな存在が。
主人公が悪人だからといえども、何か不条理なものを感じる。
社会から外れた人間たちの苦しみと、自分に選択権のない人生の恐ろしさを目の当たりにする。
世界という大きなものの中で支配されている場合は違和感はない。
自分と同じ目線である他人に支配されることで理不尽は具現化される。
天才は習慣化する
「まただ、と思った。取った記憶はなかった」
主人公は天才スリ師である。
取ることが習慣になっている。
習慣になりすぎて、無意識下で獲物を探している。
善悪は置いておいて、仕事が習慣にまでなるほど極める人間の凄さを感じる。
生きる目的は何か
「こういう風に生きてきた人間の最後が、どうなるのか。それが知りたい」
自分の人生の最後はどうなるのだろうか。
自分の犯した罪の重さにより、苦しむことになるのだろうかと、スリ師は考える。
運命というものは知覚することができない。
誰にもわからないからこそ生きて楽しみが生まれるのだろう。
超人的なもののに支配されていたとしても、自分が気づくレベルにまで落ちてこなければいい。
「この人生において最も正しい生き方は、苦痛と喜びを使い分けることだ」
これらはともに世界から与えられる刺激に過ぎないと木崎は言う。
どちらを楽しむこともできる、他人を通して。
逆に言えば楽しもうとしているからこそ、非人道的なことができるのだ。
片方だけでなく両方のアンテナを強く張っている。
理不尽な世界の中で人はいかに生きるか
「世界は理不尽に溢れている」
木崎は言う。
理不尽なことを押し付けられるのが上下関係、支配と被支配の関係である。
支配される側は何もしていなくても、圧力をかけられ、理不尽を押し付けられる。
神と人間の関係のようなものだ。
支配されることに人間は慣れていないからこそ、神を作り出すのかもしれない。
自分を納得させるために、理不尽を飲み込むために。
世界の大きさに比べたら人間は小さなもの
「世界は硬く、強固だった。あらゆる時間は、あらゆるものを固定しながら、しかるべき速度で流れ、僕の背中を押し、僕を少しずつどこかに移動させていくように思えた」
世界の大きさに触れる。
世界は自分を乗せて動いている。
少しの抵抗を試みたとしても、世界は止まらない。
世界に対する思索を働かせればするほど、我々は自分の小ささを自覚する。
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