aichikenminの書斎

20代サラリーマンが、読んだ本と、心に残った言葉、その時考えたことを徒然なるままに書き留めたもの(金融、理系、工学、航空機、読書)

【読書】 依頼人は死んだ/若竹七海 このミステリーがすごい!

動機は、「たぶん暑かったから」

依頼人は死んだ (文春文庫)

新品価格
¥670から


女探偵、葉村晶。
彼女に持ち込まれる事件は、少し切なく、そして少し怖い。
 
2016年、女探偵・葉村晶シリーズは、このミステリーがすごいで2位を獲得。
シリーズの第1作がこの作品である。
アメトーークの読書芸人でも紹介されたらしい。
ミーハーな僕としては読まざるを得ない。
テレビなどで紹介される小説、逆に最近そのような逆輸入が増えてきた。
読書好きとしては好ましい限りである。
なぜなら、絶対自分が手に取らないような本を手に取る可能性が増えるから。
本の面白さを伝える、そして伝えてくれる媒体というものは人を豊かにする、そう僕は思っている。

 

 
主人公は仕事はできるが少し変わった女探偵。
本作の魅力は、切れ味鋭い短編のつながりと流れのうまさ。
誰かに狙われていると妄想を繰り返す女性、念願の詩を出版して順風満帆の生活を送っていた詩人、突如送られてきた癌の通知に当惑する女性。
一癖も二癖もあるような依頼人が彼女の元に押し寄せる。
そしてその裏側にある事件の奇妙な真相。
構成の上手さ、それが本作の魅力であろう。

人の内面を探る仕事

「 探偵調査の仕事が綺麗事で済まないことくらい私にだって分かっている。社会は人間の汚い女に生々しく触れることも多いのだから、時にはヘドロに首まで浸かっているような気持ちになることだってある」  
探偵は、人の隠された真実を探しに行く。
時には見たくもないものも見ざるを得ない。
人間知らなくてもいい、知らないほうがむしろ穏やかでいられるということも往々にして存在する。
だが探偵は依頼されたらそれを暴きに行かなければならない。
なぜならば仕事だから。
俗世間的な仕事だからこそ、精神に受ける負荷というものはかなり大きいのではなかろうか。
 

 

自由を得ることと安定を得ること

「 世の中には奴隷と乞食の2種類しかいない。奴隷は自由がない代わり食うには困らない。乞食は自由だが飢えて死ぬこともある」
会社員とそれ以外を揶揄した言葉。
会社にぶら下がってさえいれば暮らしは安定する。
そのかわり、ある程度の自由はなくなってしまう。
フリーになればその逆となる。
誰がその二つの狭間の中でどのようにバランスをとっていくのか。
たわいもない会話の中で、ふと核心に迫る言葉があったりするのだ。
 

理解できないこと、それは最も恐ろしい

「 たぶん暑かったからじゃねえか」
殺人の動機は何だろうか。
何故、人を刺したのだろうか。
犯人はこう語る。
不思議な動機、不可解な動機。
だが世の中には、人と違った感性を持った人間もいる。
全てが自分と同じ価値観で動いてはいないのだという現実を見せられる。
 
「 死んじゃってるなら怖くはない 私が怖いのは生きている人間だけよ」
幽霊よりも怖いのは生身の人間。
他人と分かり合えなければ、一番恐ろしいのは他人になる。
理解できないこと、それ以上に恐ろしいものはない。
 

関連記事