【読書】世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)/村上春樹 この街の完全さは心を失くすことで成立している
作られた世界の中で生活する僕と、意識が失われつつある私
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二つの場面の繋がりが不明確なまま上巻は終わり、下巻に突入する。
ハードボイルド・ワンダーランドでの私は、科学者によって意識の核に思考回路を埋め込まれていた。
それが暗号解読の鍵となるものであり、唯一無二の鍵である。
私はそれによって狙われる。
世界を変えてしまうほどの技術であるから。
だが、その思考回路により作られたものは「世界の終り」という名の世界であった。
ここでようやく二つの世界がリンクする。
作られた世界の中で生活する僕と、意識が失われつつある私。
主人公はどちらを選ぶのか。
正解はない問題に、彼はどう答えるのだろうか。
芯が、軸がなければ流される
「自分の力を信じるんだ。そうしないと君は外部の力にひっぱられてわけのわからない場所につれていかれることになる」
自分の力を信じているだろうか。
流れに身を任せていないだろうか。
いつの間にか望んでいるところから大きく外れている場所についてはいないだろうか。
忙しい社会の中で、自分の軸だけは保たなければならない。
何がしたくてここにいるのか。
何を目的にここにいるのか。
自分の中での優先順位はどうか。
流されないために、つねに考えることをやめてはならない。
行為自体が、美しさ
「目的のない行為、進歩のない努力、どこにも辿りつかない歩行、素晴しいと思わんかね」
何のためにやっているのか。
その行為自体が目的であるということだ。
ある意味美しい。
心を失うことで完全になれるのか
「この街の完全さは心を失くすことで成立しているんだ」
完全なものというものは存在しない。
永久機関がこの世に存在しないように。
完全だと思うものはつねに、その裏側で何かしらの手当がされている。
だれかが頑張りすぎていたり、見えないように隠していたり。
本質を見極めるために目を養わねばならない。
「心にふりまわされたりひきずられたりしながら生きていくんだ」
心があれば、それによりブレが起きる。
存在するからこそ、論理だけではありえない方向に動くこともある。
面倒になったりもする。
でも、それって人間らしくはない。
理由なき美しさ
「いずれにせよ何かが幸せそうに見えるというのはなかなか気持の良いものだった」
ネジが皿の上に区分されて並べたものを見て主人公は言う。
なにゆえ、幸せそうに見えるのか、それはわからない。
だけれどもそう感じることが人間たるゆえんだろう。
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