【読書】ラットマン/道尾秀介 思いのすれ違いが生むストーリー
思いのすれ違いが生むストーリー
相手を思うがゆえに、お互いに錯覚し、勘違いし、合理化し、それを気づかぬまま時は過ぎる。
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題名のラットマンとは心理学の分野で有名な、人の絵にまぎれている場合は人の絵に、ネズミの絵と並んでいるときはネズミに見える絵のこと。読み終わって納得する。
誰のところにもありえそうな、一つのボタンの掛け違えを上手に描く、それが道尾さんの本。
「過ちと正しさが、そっくり同じ顔をしているのであれば、誰がそれを見分けられるというのだ」
一つの勘違いが、すべてを変えてしまう。
リアル、本当にリアルな人間の様が描かれている、そんな小説。
リアルの中にあるどんでん返し、これに尽きる。
「一生懸命に真似をすれば、その人の本当にやりたかったことがわかる」
心まで、気持ちまで人になりきることで、学ぶことは多い。
真似をするのは、中途半端ではいけないという教訓。
「頭に書き込んだ記憶を、ときおり再生し、ただそれだけで満足していればよかったのだ」
記憶は美しい。いつのまにか現実離れすることもある。
見なくていいもの、見ないほうがいいものは世の中にたくさんある。
たまに、目の前に突きつけられると、どうしたら良いかわからなくなる。
「どんなときだって明日は来るんだよ」
単純な言葉なのだが、響く。
この人の作品は、背中を押してくれるような言葉が自然と入っている。
それが大きな魅力の一つだろう。