aichikenminの書斎

20代サラリーマンが、読んだ本と、心に残った言葉、その時考えたことを徒然なるままに書き留めたもの(金融、理系、工学、航空機、読書)

【読書】龍神の雨/道尾秀介 小説でしかできないことをやり続ける

想像は人を喰らう 観念の産物であるわけが人間を腹の底に飲み込もうとするように

龍神の雨 (新潮文庫)

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蓮と楓は事故で母を失い継父と3人で暮らしている。

辰也と圭介の兄弟は母に続いて父を亡くし、母と慎ましく生活を送る。
似たような家庭環境を持つ彼ら。
彼らの物語が偶然交差する。
蓮は継父の殺害計画を企てた。
なぜなら、あの男は妹をひどいに合わせたから。
そして死が訪れる。

 

雨の中で起こる事件と複雑に絡み合う思惑、そして真実はどこにあるのか。
彼ら4人の未来はどこに向かっていくのか。
物語は、お互いがお互いを思うがゆえに悪い方向で転がっていく。
お互いのためを思ってつく嘘がさらなる悲劇を呼ぶ。
そんな悲しい連鎖。
運命のいたずらともいうのだろうか。
それらを全て見ている龍神は何を思うか、そして何を与えるか。

善悪と現実の葛藤

「 警察に電話しよう」
蓮は床下の収納庫で死体を目にする。
妹を思い、彼は真実を告白することを選ぶ、一旦は。
しかし、彼の思いは揺らぐ。
どうしたら兄妹2人が幸せに暮らしていけるのか。
邪魔モノが死んで、後は隠し通すだけなのではないか。
妹の為を思う愛情が彼を突き動かす。
 

疑心暗鬼、信じていいのは誰か

「誰かを恨みながら水の中で死ぬと竜になるんだ」
圭介の母もそうだったかもしれない。
浮き輪が破れて、彼女は死んでしまった。
だがそれは周りの誰かが仕掛けたことかも知れない。
疑い始めることで、全てが怪しく見える。
誰を信じていいのかも分からなくなる。
 

 

最後まで物語の形を見せてくれない。想像上の龍のように。

「何かを間違えているのではないのか、大きな失敗を犯してしまったのではないか」
蓮は何かに気づく。
誰が間違いを犯しているのか。
誰が本当に罪を犯したのか。
彼は、誰を守ろうとしているのか。
誰を庇っているのか、本当に庇われる必要があるのだろうか。
疑心暗鬼、まさにこの言葉がぴったりと当てはまる。
そして物語は真の形を見せる。
 

傷つきたくないから距離を置く

「もし里江のことを心から好きになってしまったら、いつかまたあの辛さを味わうことになるから」
一度失うという行為を経験してしまった少年は、それを避けるために愛情というものを忘れようとする。
心が予防線を張るのだ。
近づきすぎることで痛みは増す。
であれば近づかなければいいのだと。
 

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