【読者】匣の中の失楽/竹本健治 自分の見ている世界が虚構ではないと言い切れるだろうか?
「騙されているのは誰かということを問う小説」
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一言で言うと不思議な一冊。
現実と虚構の狭間で自分自身の立ち位置を探るミステリ。
推理小説好きのグループの人間が殺害される。
それはグループの一人が書いている小説の通りに。
現実と小説の間を行き来する本作。
現実はどちらか、それともすべて小説の中の話なのだろうか。
作中作というジャンルではあるが、本当に作中作なのかもわからない。
そんな不思議な体験をさせてくれる本作。
現実と虚構の狭間で自分自身の立ち位置を探るというミステリー。
始めての体験をくれる一冊。
「日常の時間のなかにふと迷いこんできて、そうしておけば、
いつの間にかまた、ただの幻覚であったかのように消え去ってしまう筈の架空が、今、取り返しもつかない現実へと変容してしまうのだ」
小説を読んでいた登場人物たちの目の前に、現実として現れる。
事件がフィクションのとおりに起こってしまう。
登場人物たちは混乱をするが、それ以上に混乱し頭を悩ませるのは読者に違いない。
「恐らく、この現実という見知らぬ世界においては、事実でしかないものは必要とされないのではないか」
現実において、すべてが合理的に実行され、事実となっているものばかりではない。
むしろ様々な思いや想いが混ざり合って、作られているのが現実。
理論の塊として、結果として出来上がるものはあくまで虚構。
実態として存在しているのが現実。
それら二つは似通っていても異なる。
本作において、読者は右往左往という言葉がピッタリと合うほどに混乱させられる。
「何が真実であるかは、どうすれば確かめられるのだろうか」
登場人物たちはしばしばメタ的視点を含んだ発言を繰り返す。
それらは我々読者と同じ立場にいるようでいて、実は異なっている。
なぜなら彼ら自身も現実と虚構の間を行き来しているから。
見ている世界が異なって、迷子になる。
「区分けや整理というのは、世界の抽象化にほかならない」
抽象化された空間において、予測する能力を手に入れることができる。
それが進んでいくと到達するのはラプラスの悪魔。
すべてを予測できるからこそ、自分自身の心も予測することができ、
支配されているようで、実はその自分自身も系の一部として取り込まれている。
視点が広くなることで客観性を確保できているようであるが、パラドックスが存在する。
本作は、自分がどこにいるのか、どこの世界を見ているのかという謎解きがテーマかもしれない。
自分の見ている世界が虚構ではないと言い切れるだろうか?
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